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レビュー一覧 (204件)
あめんぼうさんの投稿レビュー/東温市立図書館
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(4人)
191. 納得して死ぬという人間の務めについて
曽野 綾子‖著
KADOKAWA 2018.5
あめんぼう さんの評価:
今まで曽野綾子さんの本を読んでこんな風に思った事がなかったけど・・・初めてこの本で何となく、これって自慢?と思ってしまった。
自分の生き方や考え方に自信を持っておられるというのは他の今まで読んだ本と同じだけど、それ以外の物質的な面で、その自信が自信を通り越してる・・・と感じられた。
読んでいてチラホラとそういうのが気になりつつも、作中ご主人の死について書かれていて、夫婦の魂の結びつきが感じられるのがいいな・・・羨ましいな・・・と思った。
書かれている事によると、ご主人はかなり大人で成熟された人格の人だったらしく、魂や知的レベルから曽野綾子さんとつりあう人だったんだろうと感じられた。
同レベルで大人の感性をもってした語らいは、私では想像できないほど建設的なものだったのだろうと思う。
さらに、ご主人が
「知寿子(私の本名)を裏切ったことはないよ」と、最期に近い頃に言ったということ。
そんな事を言っても言わなくても生涯私の心を支えてくれたのは夫だった、とあり、その通りだろうと思うけれど、私には夫にそう言い切ってもらえる曽野綾子さんが、羨ましかった。
その一言だけで、信頼という深い絆で結ばれた仲だったんだと思った。
また、人間は毎日生きる目的をもっているほうが楽だ、とあり、どんな高尚な事がこの後に続くのかと思いきや、
『冷蔵庫の野菜の保管庫に眠っている野菜類を、今日のうちに煮て食べてしまおう、という程度の目的で暮らしている女性は、私をはじめとして世間にたくさんいる。しかしそれでも目的としては立派なものだ。
残りものの野菜をそれでおお惣菜として使うということは、それなりに積極的な行為だと言える。不用品になりかけているものを救うという仕事は、何ら積極的な見を持つ行為とは言えないような気もするが、実はそうでもない。手の届く範囲にある品物を生かして暮らすということは、建設的作業なのだ。』
という考え方は「なるほど・・・」と思い、この本の中で一番印象に残った。
また、
人でも物でも、それが存在することに馴れるには一定の時間がかかる。茶箪笥を捨てた後に、その部分だけ日焼けしてない青い畳の色が目立つと人間は不思議と動物的に落ち着かなくなる。
幸福というのは、安定と不変に尽きる、
というのは鋭い感性だと思ったし、曽野綾子さんのような変化を恐れないような人が書く言葉というのがさらに説得力があると思った。
この本ではご主人の晩年、死について語りつつ、未亡人としての思いというのはほとんど綴られていない。
それだけに、これだけの感性をもつ人が一番大切な人を亡くした痛みはどれだけのものだろう、と却って伝わってきた。
最後に、人は人と自分を殺さなければ人生大成功とあり、まるで究極のようだけど、それくらいの大楊さで人生をとらえる目線は素敵だと思う。
今まで曽野綾子さんの本を読んでこんな風に思った事がなかったけど・・・初めてこの本...
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(24人)
192. 嗤う淑女
中山 七里‖著
実業之日本社 2015.2
あめんぼう さんの評価:
読んでいる時は面白いけど、ストーリー後半から読後感にかけて「何だかな~」になってしまった。
全体的な感想としては、浅い。薄い。
それはストーリーにしてもそうだし、登場人物にも深みが感じられない。
人を惹きつけるのは上手だけど、その魅力に中身が伴ってないな・・・と思った。
物語の中心になるのは、八頭身の美女、蒲生美智留。
彼女の美しさに惹かれ、関わった人間たちは皆破滅に追い込まれる。
彼女を暴行していた実の父親。
父親を殺す際に共犯者となった従姉妹の恭子。
彼女に唆され、その恭子を殺す事になった、恭子の弟。
2億以上の金を横領した学生時代の同級生の女性。
生命保険の金目当てに夫を殺した女性・・・。
その全ての悪事が彼女の目線でなく、被害者となった彼らの目線で描かれている。
最後の章は美智留の章となっているが、彼女の心情はほんのちょっとしか触れられてなくて、彼女がどうしてここまで人を陥れたのか、その理由づけが浅い。
また、彼女に唆されて悪事に走った人たちも、読んでいて「ここまで究極に走るかな・・・」と思う。
父親に暴行を受けていた、壮絶な過去があるのに、当の本人はどこか翳りのようなものを感じず、印象としてはただ、やられたらやり返す、自分の欲しい物のためにひ人を陥れるという、ありがちで浅薄な人間という印象。
この本はエンタメ本として読めばそれなりに楽しめるけど、それ以上のものを求めるとただ物足りない、という感想をもった。
読んでいる時は面白いけど、ストーリー後半から読後感にかけて「何だかな~」になって...
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(6人)
193. 向こう側の、ヨーコ
真梨 幸子‖著
光文社 2018.4
あめんぼう さんの評価:
女流作家の陽子は夢を見る。
それは、もう一人の「ヨーコ」の夢。
陽子はその夢を「向こう側のヨーコ」と称して中学生の頃にスピーチした事がある。
「向こう側のヨーコ」は、パラレルワールドにいる、もう一人の自分。
両親が離婚せず、そのまま親のもと暮らしていた陽子と違い、ヨーコは親が離婚し、祖母に育てられ、志望した高校にも行けなかった。
ヨーコはその後も夢の中で成長し、現在は独身の陽子と違い、結婚して子供が一人いる。
陽子の話はA面。
ヨーコの話はB面。
としてストーリーは進む。
主人公陽子を中心として、彼女の中学時代からの友人、純子、久美子、真由美、中学時代の同級生でセレブで美人の裕子の話が入り交じりながらー。
作中、殺人事件も起こりながらー。
さらに、A面、B面とくっきり分かれていた話は徐々に境目が分からなくなり、やがて一つの線になっていく。
相変わらず、複雑な話になっている。
ヨーコが何人か、そして他にも似たような名前の人が登場し、読む人間が混乱し、勘違いするように伏線がいくつもはられている。
この話はどこに落ち着くのかーと思うも、それが結末には一つの線につながるんだからすごいと思う。
改めて全て読み終えた後に、物語の冒頭を読むと、もうここから既に読者を騙してるんだ・・・と感心した。
結末には無理を感じるも、思いがけないものだったし、何といってもいつもの如く、女性同士の嫌らしい感情がコミカルに描かれているのがいい。
こういう事、普通に思うよね・・・。
それを極端に、おかしみを加えて書いてるだけで・・・。
なんて思いながら読んでいるのが、結末どうこうよりも面白かった。
女流作家の陽子は夢を見る。それは、もう一人の「ヨーコ」の夢。陽子はその夢を「向こ...
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(17人)
194. ミステリークロック
貴志 祐介‖著
KADOKAWA 2017.10
あめんぼう さんの評価:
久々の貴志祐介さんの本という事で期待が大きかったせいか、読後感は「う~ん・・・」というものだった。
途中まではガマンして読んでいたけど、とうとう後半は斜め読み。
榎本、青砥弁護士コンビが登場する密室トリックを用いた4話からなる本だけど、私はあまりトリックを用いた話に興味がないからだと思う。
こういう話はくっきりと好き嫌いが分かれるように思う。
「ゆるやかな自殺」
暴力団事務所で組員の男性が拳銃を口に向けて発砲し死亡した。
一見、自殺のように思われた事件だったがー。
榎本が密室殺人の謎を解き明かす。
4話の中では最初のこの話が一番面白かった。トリックよりも犯人の心理を主に描いていたからかもしれない。
「鏡の国の殺人」
美術館の館長が殺された。
死体のあった執務室に行くには、防犯カメラを潜り抜け、鏡で作られた迷路を通らないといけない。
結局の所、「嫌な奴」というのは自分にとって不都合な人間という事かもしれない。
「嫌な奴」もその裏に別の顔があってーというのが、トリックに使われた鏡と響き合っている。
「ミステリークロック」
とある女流画家の山荘に集まった9人の男女。
彼らがミステリークロックという値打ちものの時計を値踏みしている間にホストである作家は殺された。
山荘の9人の中には、もちろん榎本、青砥もいて、鉄壁な犯人の犯行を解き明かす。
「コロッサスの鉤爪」
ダイバーの男性が海底で殺された。
海底の密室とも言える場所での殺人を榎本が解き明かす。
ここで用いられているトリックはマニアックともいえるもので、読んでいて途中から意味が分からん!
分からないから読んでいてもつまらないとなってしまった。
昔からある、こういう密室殺人のトリックを扱った本のように図で表していたりもするものの、それでも脳がツルッツルの私には理解不能。
それにしても、今密室という状況を作り出すにはこれほど七面倒くさい条件が必要なのか・・・と思った。
携帯電話やネットの普及で、密室やトリックを作るのは難しい。
そして、そんな難しいトリックは私のような人間にはとっつきにくい。
面白くない。
また、専門的な部分はその分野で詳しい人間に矛盾点をつかれたり・・・それが、こんな風に難解でつまらなくしてる一因でもあると思う。
・・・なんて思いながら読んでいると、2話目の話で作者自身もその辺りの事は分かってますよ、と登場人物に語らせ、明言していた。
この本は文章で楽しむには私程度の想像力では無理かもしれない。
映像化されて初めて面白かった、と言える本なのかもな・・・と思う。
久々の貴志祐介さんの本という事で期待が大きかったせいか、読後感は「う~ん・・・」...
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(8人)
195. つながりの蔵
椰月 美智子‖著
KADOKAWA 2018.4
あめんぼう さんの評価:
主人公は双子の母親の主婦。
彼女は久しぶりに小学校のクラス会に出席する事にする。
それは、その頃仲が良かった「四つ葉ちゃん」という友達がクラス会に来ると知ったから。
小学校の頃の彼女は美音という、可愛くてちょっと気の強い友達がいて、その子とは別に、ちょっと変わった雰囲気の四つ葉ちゃんという女の子と仲良くなる。
四つ葉ちゃんの家は大きな家で、その敷地には蔵があった。
そこで主人公と美音は不思議な体験をする。
表紙とタイトルから「イイ話系」の話なんだろうな・・・と想像して読んだらその通りだった。
個人的にそういう系統の話はあまり好きじゃないので、期待せずに読んでいたら意外にも良かった。
話そのものが・・・というよりも、小学生の女の子のちょっと傷つきやすくて瑞々しい感性みたいなのが、作者の繊細で鋭い感性によって描かれている、という感じで、想像しながら読でいるとあっという間に読めてしまった。
3人の女の子もいい子たちでそれほど刺激的な事があるわけでなく、書いてある事もそれほど驚いたものじゃなかったけど、言葉遣いや文章そのもので読ませてくれる本だった。
亡くなった人に対しての思いは私もここに書いてある事と全く同じように思っていて共感した。
あと、主人公の女の子が祖母が認知症になり、自分の事を忘れかけている、淋しい・・・という気持ち、それを踏まえて、生きている時よりもその人が亡くなってから側にいてくれてると感じる、生きている人の事の方が忘れてしまう事がある、って分かるな・・・と思った。
主人公は双子の母親の主婦。彼女は久しぶりに小学校のクラス会に出席する事にする。そ...
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(2人)
196. 怪しくて妖しくて
阿刀田 高‖著
集英社 2018.6
あめんぼう さんの評価:
12話からなる短編集。
タイトルのように、霊や妖が出てくる、ちょっと恐い話ばかりだけど、特に恐くもないし、「あ、終わったんだ・・・」って、あっけなく結末を迎える話ばかり。
いつも、読んだ本を忘れて同じ本を何度も読む事がないようにと、読み終えてあらすじを書いているけど、この本に関してはそういう気にならない。
読んでいる端から内容をどんどん忘れていってしまう話ばかりで、登場人物に特徴がないために話と話の区切れさえも分からなくなるほど。
ただ、この作者の本は最近の著作はこれに限らずこんな感じで、別にそれはそれでいいのかな・・・と思わせるものがある。
12話の話の中のどれが恐かったとか、印象に残ったとかいうのも特になかった。
登場人物たちが作中に語る会話が雑学めめいていて、それが読んでいる時にちょっと興味をひかれた・・・というくらい。
とにかく、この本をまた読む事がないように気をつけようと個人的に思う。
12話からなる短編集。タイトルのように、霊や妖が出てくる、ちょっと恐い話ばかりだ...
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197. 鏡じかけの夢
秋吉 理香子‖著
新潮社 2018.5
あめんぼう さんの評価:
何でも願いをかなえるという鏡に魅入られた人々の話。
「泣きぼくろの鏡」
精神病院の看護師として働く女性。
その病院の特別室には、泣きぼくろのある、美しい女性患者がいて、主人公は彼女の素敵な夫に惹かれるようになる。
いつも女性が櫛を梳く自分の姿を映す鏡には、ある謂れがあった。
それは、その鏡を磨く時に願いを念じながら磨くとその願いが叶うというもの。
それから彼女は奥様になり替わりたいと願いながら鏡を磨き、その願いは叶えられたがー。
「ナルキッソスの鏡」
主人公は鏡を研ぐ職人の男性。
彼は華族の依頼で古びた美しい装飾の鏡を磨く仕事をしている際、美青年に声をかけられ、彼に恋心を抱くようになる。
やがて、その青年が鏡に映った自分にキスをしているのを見た彼は、青年が恋しているのは青年自身だと気づく。
その後、青年にからかわれた主人公は彼に復讐するがー。
「繚乱の鏡」
関東大震災の火事により、火傷で顔が焼けただれた男性が主人公。
その後、彼は大金持ちになり、美しい踊り子に恋をする。
彼は彼女を売り出すために大枚をはたき、その度に彼女に裏切られる。
やがて、自分の本当の願望に気づいた彼のとった行動とはー。
「奇術師の鏡」
戦争により、片足と指をなくした男性が主人公。
彼は、とある、いわれのある鏡を見つけ出したら大金をもらえるという話を聞き、その後、その鏡がどこにあるか知っているという浮浪児の少年と出会う。
彼は、日銭を得るために主人公が披露していた奇術をいつも側で見ていた少年で、鏡のありかを教える代わりに母親に会わせてほしいと言う。
その後、少年が披露したトランプのカードさばきを見て、主人公は彼に奇術を教える。
主人公は願いが叶うという鏡に有名な奇術師になりたいと願うがー。
「双生児の鏡」
爆撃を受けた故郷からヴェネツィアに流れついた双子の少女たち。
彼女たちはサーカス団に拾われ、双子ならではの奇術のために、双子である事がばれないように、1日おきに舞台に出る事になる。
所が、姉は交替してくれず、いつも自分が表舞台に立ち、それに反し妹は日の当たらない貧しい暮らしをする事に。
やがて、妹は一人の青年に恋をするが、それをきっかけに姉との仲は断絶。
彼女は姉になりたいと鏡に願う。
不思議な魔力をもつ鏡は最初の話の主人公の手から次の話の主人公へ、そしてまた次の話の主人公へと渡っていく。
どの話も読んでいてワクワク、ドキドキした。
最初の話は鏡の話としてはありがちなシチュエーションの話だけど、結末が良かったし、2話目と3話目は妖しげな美しさの漂う話だった。
特に、3話目の結末は想像すると、残酷だけど美しい。
こんな発想があるなんて・・・と感心した。
この話の踊り子の女性はとんでもない嫌な女だけど、彼女の幸せを願うという主人公の男性も実は自分の幸せしか願ってないよな・・・と読んでいて思った。
本当の彼女の幸せを願う人ならほいほい彼女の欲しがるものを与える事はしない。
結局、女性は自分の力で願望をかなえる事や大事なものを彼から奪われた・・・と言えるかもしれない。
4話目は割といい話で、最終話も「そうだったのか・・・」という話だった。
鏡はその人間の内側に秘めた嫉妬や欲望を写しだす。
結局、魔鏡と言われる鏡はただの鏡で本当の魔は人間の心なのだと見せてくれる本だった。
何でも願いをかなえるという鏡に魅入られた人々の話。「泣きぼくろの鏡」精神病院の看...
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198. インフルエンス
近藤 史恵‖著
文藝春秋 2017.11
あめんぼう さんの評価:
小説家の女性はある日、自分の経験を小説にして欲しいという女性から連絡を受ける。
期待せず、彼女と会った主人公はその話に引き込まれていく。
実は主人公は語り部の女性と同級生。
そして、彼女の語った話とはー。
同じ団地で知り合い、親友になった3人の少女。
体験を語る女性は友梨。
彼女はどちらかと言えば地味な普通の少女。
そして、小学校2年生までは仲良くしていた友達の里子。
彼女は祖父に性的虐待を受けていて、それを知り、徐々に彼女と疎遠になった友梨は罪悪感を感じている。
真帆は東京から引っ越してきた美少女。
魅力的だが、最初は孤独だった真帆に友梨は声をかけ仲良くなる。
やがて、里子はたちの悪い少年と仲良くなり、クラスメートの少女をその少年が殺した時、その場に居合わせたという事で周囲から孤立していく。
そんな折、真帆が見知らぬ男に連れ去られそうになり、その男を友梨が刺殺すという事件が起きる。
警察につかまるとおびえる友梨だが、何故か里子がその罪をかぶり、少年院に入る事になる。
その後、その事により罪悪感を感じる友梨の前に里子が現れ、「祖父を殺して欲しい」と依頼する。
それを発端にして真帆がした事、大人になった友梨と真帆が再会した時、真帆が友梨に依頼した事とはー。
この話、こうやってあらすじを書きだしていくと、どこで大体のあらすじを書くのをやめたらいいのか、それが難しいというのに気づいた。
この後も主な話が続いているけど、それを書き出すときりがない。
つまり、とりとめがない。
ここに出てくる少女や女性たちの気持ちは分かるのもあれば分からないのもあった。
事が起きる動機のようなものは分かる。
大人になってもそういうのはあるけど、特に少女の頃はそういう気持ちが隠しきれず、それなのに素直にはなれない。
友達がいくらでもつくれる人ならそうでもないのかもしれないけど、私にもあの頃そういう気持ちがあったな・・・と思った。
でも、ここまで究極の要求をするかな・・・とは思う。
何となくもっと何かあるのかな・・・と期待してた分がモヤモヤしたものとなって残る読後感だった。
小説家の女性はある日、自分の経験を小説にして欲しいという女性から連絡を受ける。期...
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199. 異形のものたち
小池 真理子‖著
KADOKAWA 2017.11
あめんぼう さんの評価:
6話からなる怪異短編集。
どの話もストーリー、結末共に、それほどの驚きや恐さはないのに、何となくぞわっとくる、魅力を感じるのは文章そのものの巧みさによるものだと思う。
その繊細な感覚による文章に、自然に想像をかきたてられ、何となくゾワッときた。
「面」
昔は大地主だった家に生まれ育った男性。
彼は子供の頃、母親に「農道の先に行ってはいけない」と言われていた。
大人になった彼がそこで目にしたものとはー。
「森の奥の家」
バスの事故で亡くなった親友と父親の住んでいた山荘を訪れた女性。
彼女はそこで当時の事を回想し、近くにある洋食屋に入るがー。
「日影歯科医院」
夫の浮気、離婚により傷ついた女性は従兄夫婦に誘われ、地方都市に移住する。
そこで、歯の銀冠がとれた彼女は「日影歯科医院」という陰気で古びた歯科を訪れる。
その待合室には老夫婦とその孫らしき子供がいた。
古い医院にしては夫婦らしき歯科医の治療は中々のもので、痛みもなく、とどこおりなく終わったが、後日、彼女はその歯科について従兄からある話を聞く事となる。
「ゾフィーの手袋」
夫の事を恋してたと思われるオーストリア人の女性。
主人公の女性は夫の死後、いるはずのない彼女の存在を身近に感じるようになる。
「山荘奇譚」
恩師の通夜のため、甲府市を訪れたテレビ局に勤める男性。
彼はそこでたまたま乗ったタクシー運転手にある宿を紹介される。
そこの女将は、ここの地下には幽霊がいて、浴衣を着て行くと必ず幽霊が現れると言う。
超リアリストの彼はそんな事は信じないが、後日その話を聞いて興味をもった後輩の女性がそこを訪れるがー。
「緋色の窓」
流産し、神経質になっている姉の面倒をしばらくみる事になった女性。
その高級住宅地を何故か姉は嫌っていた。
隣には妾をしている色っぽい女性が住んでいたが亡くなり今は空家になっている。
彼女はそこであるものを目撃する。
このレビューを書くので軽く読み返すと、何でもないと思われた最初の話はちょっと深く読めてきた。
話自体はどこかで聞いたような話とか、とりとめない話ばかりなんだけど、情景を想像すると恐くなる、という話ばかり。
それに、今回のように何度か読み返せば違う感慨がある、というのもお得感がある。
ちょっと物足りないものの、分かりやすい残酷さ、恐さでない分、全体的に上品さを感じた。
6話からなる怪異短編集。どの話もストーリー、結末共に、それほどの驚きや恐さはない...
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(17人)
200. 路上のX
桐野 夏生‖著
朝日新聞出版 2018.2
あめんぼう さんの評価:
大人ー特に大人の男に搾取され、いたぶられる二人の女子高生の物語。
この物語に出てくる主な主人公は三人の女子高生。
その中の二人の女子高生ー真由とリオナの目線から物語は描かれている。
両親が夜逃げし、親戚のもとで暮らす真由。
そこは血のつながる叔父とヤンキーのような叔母がいて、真由には居場所がない。
それどころか、まともに食事も与えられず、高校は無理やり偏差値の低い公立高校に転入させられた。
「家」に帰るのが嫌な真由は夜、ラーメン屋のバイトをしている。
そして、ある日、「家」を出てそのラーメン屋に泊まりこむようになるが、そこで酷い目にあい、自暴自棄になっている所、リオナという女子高生と出会う。
リオナは義理の父親から性的虐待を受けている少女。
肉親である母親は彼女をかばう所か、父親の側についてリオナを責める。
家には居場所のないリオナは友達の家を渡り歩き、JKビジネスでお金を得て生活をしている。
そんな二人が狡くて醜い大人たちに騙され、搾取されていく様が描かれている。
この本を読んでいる時、ふと、テレビを目にした時、大人の男性が目に入り嫌悪感を感じた。
それくらい、ここに書かれている男性たちは酷くて、吐き気がするくらい醜悪。
そんな醜い大人たちにまるでいいように扱われている主人公たち、女子高生が本当に可哀相だった。
でも哀れっぽいだけではなく、彼女たちはそんな中でいろいろと学んで、たくましく生きようとしている。
そこにまだ希望を感じる。
今までこういう家出した少女や女性を扱った小説は途中で良心的な人に出会って・・・という、「やっぱ小説だね」という話が多かったけど、この話はそういうご都合主義できれいごとを書いたストーリーじゃない。
だから、読んでいてキツいし、痛くなるんだけど、現実、家もない。何もない。
持っているのはその若さと美しさという少女たちはこんな風になっちゃうんだろうって思う。
だからこそ、リアルに痛い。
終盤と結末は「どうなんだろう」ってなったけど、それは、そういう醜い大人たちにも一応大人の事情があって、そういうのを理解する余地もあるんだよっていう事かなって思った。
JKビジネスなんて、今時の言葉だけど、大昔から言い方は違うだけでこういうのはあって、女性ー特にまだ若い女性は弱い立場だし存在だとつくづく思う。
それをこういう痛さをもって見せてくれる桐野夏生さんはすごいし、センスいいと思った。
大人ー特に大人の男に搾取され、いたぶられる二人の女子高生の物語。この物語に出てく...
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