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レビュー一覧 (204件)
あめんぼうさんの投稿レビュー/東温市立図書館
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(19人)
41. コロナと潜水服
奥田 英朗‖著
光文社 2020.12
あめんぼう さんの評価:
幽霊や霊力的なものが登場する5話からなる短編集。
幽霊が登場すると言ってもどの話も恐くない。
むしろホロッとくるようないい話ばかりだった。
「海の家」
妻の浮気により、数か月、海の側の別荘を借りて住む事にした作家の男性。
彼は別荘に住んでから夜になると子供の足音を聞いたり、不思議な体験をする。
「ファイトクラブ」
左遷され、慣れない警備の仕事をする事になった男性たち。
そこには身体を鍛える器具が置かれており、やがて彼らはそこで知り合った男性からボクシングを教わる。
「占い師」
プロ野球選手とつき合っている女性。
彼女は彼がプロになってから冷たい態度をとるようになり悩んでいる。
そんな折、とある占い師を紹介され、彼女の元に通うように。
彼女に悩みを打ち明ける中で、野球選手の彼はスランプに陥り、気持ちを取り戻したかのように思えたがー。
「コロナと潜水服」
5歳の息子が超能力をもつようになった事に気付いた男性。
その能力とはコロナをいち早く察知する能力。
最初は半信半疑だったが、そんな彼自身がコロナになって家族にうつらないように潜水服を着て過ごす事に。
「パンダに乗って」
イタリアの車、パンダが好きで、東京から新潟まで車を引き取りに来た男性。
待望のパンダに乗り込むと、車は勝手に道案内を始める。
車の案内するまま訪れた場所、知り合った人々はー。
どの話の主人公たちも好感がもてる。
考え方が明るくて、幽霊に対して誰もがむやみに恐がったりしていない。
最初の話の男性は幽霊の子供に明るく呼びかけているし、最後の話の男性は自分の行きたくない所へ車に連れまわされているのに怒ったりせず、むしろ親しみを感じているように見える。
どの話の登場人物たちも余裕を感じて、作者の人柄を感じさせてくれた。
だから読み終えて、ジーンとくる。
だけど、どの話もすごく短くてサラッと書かれている印象があるから、深いジーンではない。
それがむしろ押しつけがましくない感じでいいな・・・と思えた。
恐い存在のものもこの本のような対応をする事で恐くなくなるのかもな・・・なんて思った。
幽霊や霊力的なものが登場する5話からなる短編集。幽霊が登場すると言ってもどの話も...
図書
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(3人)
42. 夜の声を聴く
朝日文庫 う27-1 宇佐美 まこと‖著
朝日新聞出版 2020.9
あめんぼう さんの評価:
主人公は中学生の頃から引きこもりの18歳の青年。
彼は目の前で自分の手首を切り、自殺を図った女性を好きになり、その女性の通っている定時制高校に編入する。
そこは訳ありの年齢様々な男女が通っていて、その中の元気な青年、大吾と仲良くなる。
大吾は天涯孤独の身の上で、便利屋で住み込みの仕事をしている。
便利屋を経営しているのは癖のある老女。
その便利屋に入りびたるようになった頃、好きな女性の叔父が自殺するという出来事が起きる。
だが、ある事に気付いた主人公はそれは自殺ではなかったと解き明かす。
その後、便利屋に金持ちの女性から依頼が入る。
それは、夫が亡くなった息子がタヌキに化けて何か伝えに来ている。
それを聴き取って欲しいというもの。
その依頼もタヌキの巣穴を見つけた事から解明。
その後、父が描いた絵を義理の母親が売り、それを買い取りに来た娘の依頼から、主人公は18歳の少女と出会う。
彼女の抱えてる問題を解決、その後、大吾の家族を殺した犯人をつきとめていく。
何だろう。
よく出来た話だし、筋は面白いのに、読んでいて面白いと思えなかった。
何度も読む手が止まり、何とか読み終えた。
一瞬で心惹かれて彼女が通っている定時制にまで通うようになったのに、その女性の事はどうなった?と読みながら思った。
それと作中に、ある人物が言った、幸せだから過去の事を考える、というのは違うように思う。
今が幸せなら、過去の事も良しと出来ると思う。
主人公は中学生の頃から引きこもりの18歳の青年。彼は目の前で自分の手首を切り、自...
図書
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(11人)
43. 月夜の森の梟
小池 真理子‖著
朝日新聞出版 2021.11
あめんぼう さんの評価:
昔何かで、小池真理子さんは軽井沢かどこかの別荘地に、夫で小説家である藤田宜永さんと暮らしているというのを読んだような気がする。
その藤田さんが亡くなられ、二人で過ごした日々を偲んで書かれたエッセイ。
まるで小池真理子さんの小説を読んでいるような気分になった。
私が苦手な、「恋」以降の小池真理子さんの作品。
耽美的で美しく、現実離れした世界観のもの。
何でもリアルに書けばいいというものではないけど、エッセイすらもこの雰囲気か・・・とついていけない気分になった。
自宅で梟の鳴き声が聞こえる、そんな暮らしは私とはあまりにかけ離れていて、読んでいて浮世離れしてるな・・・と思った。
それに近い暮らしをしている方にはそれがリアルであり、何も浮世離れなどはしてないと思う。
小池真理子さんの恋愛小説が好き、小池真理子さん自身が好き、興味がある、という方ならこのエッセイを読んでしみじみくるものがあると思う。
昔何かで、小池真理子さんは軽井沢かどこかの別荘地に、夫で小説家である藤田宜永さん...
図書
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(58人)
44. 自転しながら公転する
山本 文緒‖著
新潮社 2020.9
あめんぼう さんの評価:
主人公はアウトレットモールの婦人服店で店員として働く女性。
彼女は父、母との三人暮らしで、母親は更年期障害を患っており、彼女はそのため仕事を週4日の勤務にして母親に付き添い病院に通っている。
つき合っていた男性は彼女に何も告げずに地元に帰り、独り身。
そんな折、ひょんな事から回転寿司屋で働く男性と知り合い、成り行きでつき合う事ととなる。
所が、彼は勤めていた寿司屋がつぶれて無職になってしまう。
ほどなくして、そんな彼を両親と会わせるも、父親は中卒で無職の彼とつき合う事に反対。
しかも、お金の使い方の事で彼とケンカして疎遠になってしまう。
勤めているアパレル会社の上司からのセクハラ、アルバイトの女性の不満を聞いたり、ストレスのたまっていく日々ー。
そんな30代女性のあれこれを描いた話。
私は以前からこの作者の書いたものを読むと、繊細な感覚で書かれていると感心しながらも、読んでいるとずっと気分が低調になるのを感じている。
この話もそうだった。
話の結末は爽やかなものではあるけど、読んでいる最中ずっと頭に重い雲がかかっている感じがした。
この作者の書くものに限らず、最近読む本の中で主人公がいい人だと周りに思われている、そんな主人公をどうもいい人だと思えなくなってる。
この話の主人公もそうで、周りにいい人と思われてるけど、私には冷たい人だと感じられた。
ずっと一緒に働いてるのに目下のバイト女性がパワハラやセクハラを受けてた事に気づかない事、何かあるとバッサリと人を切り捨てる事、そうかと思えばあっさりとつき合いを再開させる事。
かと思えば、ひどいセクハラを受けたのに仕事を辞めないので、その辺の情緒はどうなってる?と思った。
さらに、最初は彼女は仕事を押さえてまで生活を占めていた母親の更年期障害の事はどうなった?と思った。
私自身、もう10年近く更年期障害だけど、ひどくなるとこの話の母親のようにバスに一人で乗る事も出来なくなるのか・・・と思った。
だけど、読んでいると母親は家族と普通に会話をしていて、それなのに・・・?と想像力が乏しいので思ってしまう。
最近、世の中でいいとされるものが私にはどうもよく思えない事が多くて、大分、感覚が世間とズレてるので、これはそういう人間の個人的な感想と思われたら良いと思います。
主人公はアウトレットモールの婦人服店で店員として働く女性。彼女は父、母との三人暮...
図書
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(1人)
45. 黒白の一族
明野 照葉‖著
光文社 2021.12
あめんぼう さんの評価:
主人公は両親と離婚して実家に戻ってきた双子の妹、その子供と暮らしている女性。
彼女の住む家の隣に、ある一家が越して来る。
彼らは10人からなる大家族で、家長である女性、その三人の娘、娘たちのそれぞれの夫、孫という構成。
彼らは1200年前から続く巫女の家系だと言い、家の敷地に神社を建て、お祭を始めたりと変わった事を始めた。
さらに、家長である女性は霊力があり、それで予言めいた事を言ったりする。
その一家の孫娘と主人公の姪とは同じ歳で仲良くなり、双子の妹も彼らに好意的で交流をもつようになる。
それに危機感を覚えた主人公は民俗学専攻の教授に巫女について聞いたり、父親とタッグを組み相談しながら彼らの事を探っていく。
とにかく荒唐無稽な話で、こういう話か・・・と分かった時点で読む手が止まった。
荒唐無稽ならそれはそれで、オカルト話どっぷりの話なそういう話として読めるけど、この話はそうじゃなく中途半端。
さらに、一番読んでいて辟易したのは主人公の女性の言動。
こういう話だと、隣が不気味で、一日中祝詞をあげるなど、何かと困った事があり・・・という展開なら分かるけど、何もない段階でこの主人公は自分から彼らの事を探り、自分から彼らの家に行ったりしている。
ものすごい暇人だ・・・と見てて思った。
うんざりしながら読んでたら結末にまたギャフンときた。
結局、何なの?この人・・・と呆れるばかり。
確かにこんな隣人がいたら心穏やかではいられないかもしれないけど、向こうが何もこちらに攻撃してない状態で、あれやこれやと向こうの事を考えてるのは、むしろ心を支配されてる、取りこまれてると言えると思う。
目に見えて仲良くしている双子の妹や姪よりも質が悪いかもしれない。
終盤のコロナを予言のくだりも、読んでいてさらにうんざりきた。
主人公は両親と離婚して実家に戻ってきた双子の妹、その子供と暮らしている女性。彼女...
図書
貸出可能
(4人)
46. 月の光の届く距離
宇佐美 まこと‖著
光文社 2022.1
あめんぼう さんの評価:
17歳で妊娠、相手の男には逃げられ、両親から見放された少女は絶望し、屋上から身を投げようとする。
その時、一人の女性と出会い、彼女の紹介で、とある施設に身を寄せる事になる。
そこは彼女のような行き場の無い人たちが一時身を寄せる所で、その施設を経営している一家も複雑な過去を抱えていた。
避難場所の事を「踊り場」と表現したり、タイトルの月の光が優しい印象だと思った。
壮絶な人生を送ってきた人が優しくいられる様子がホッとできる。
こんな場所がどこかに実際あればいいな・・・と思った。
17歳で妊娠、相手の男には逃げられ、両親から見放された少女は絶望し、屋上から身を...
図書
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(6人)
47. 灼熱
葉真中 顕‖著
新潮社 2021.9
あめんぼう さんの評価:
お話の舞台は第二次世界大戦のあった頃のブラジル。
ブラジルに移民してきた沖縄の少年、勇とブラジルで大きな畑を経営している家の息子、トキオが出会い、親友になる。
その友情は二人が成長して青年になってからも続いていたが、トキオの家で栽培している薄荷が軍事目的で作られているというデマが回り、それを良く思わないグループに勇は取り入れられ、ついに栽培された薄荷を焼く手助けをする。
その事により、トキオ一家は村にいられなくなり、別の所でまた開拓する事となる。
その後、日本は戦争で負けたが、村の人々は戦争に勝ったと思いこまされる。
その中に勇もおり、日本は戦争に負けたと言うトキオに苛立つ。
やがて両者の対立は、戦争に勝ったと信じている人々が負けたと言う人々の代表を殺す事にまで発展して、否応なく勇とトキオもその流れに巻き込まれていく。
私は二人以上の人が恐い。
一対一だと何とかなるけど、二人相手だと口でも体でもかなわないと思うから。
この物語の主人公である青年二人も一対一で対峙していたらこんな事にはなってないと思う。
自分が特に教育も受けてなく、何も知識がない状態で、デマを流されたら、当然周りの熱に押されてそれを信じるだろうし、狂信的になるかも・・・と思うとそれも恐いと思った。
とても残酷な話だけど、自分に置き換えると納得できる話でもあった。
話は後半にいくごとに面白い。
だから、当時のブラジルの様子や全体像について詳しく丁寧に書かれてあり、その記載があるからこそ本に厚みを与えているのだと分かりつつも、早く結末が知りたくて、その部分を端折りながら読んでしまった。
これだけの事を調べて本にするのは相当な骨のいる事だったろうと読みながら思った。
途中、占い師の老婆の正体は想像ついたけど、彼女にしろ主人公たちにしろ、何か大きなものに翻弄されたように思う。
その中で人間的な感情を忘れてなかった事に救いを感じる。
人間は助け合う以外は、もう個で生きる時代に入ってるんじゃないかと思う。
お話の舞台は第二次世界大戦のあった頃のブラジル。ブラジルに移民してきた沖縄の少年...
図書
(1人)
48. コロッサスの鉤爪
角川文庫 き28-6 貴志 祐介‖著
KADOKAWA 2020.11
あめんぼう さんの評価:
ドラマにもなった、防犯コンサルタントの榎本と弁護士の青砥シリーズ。
新作かと思いきや、以前読んだ「ミステリークロック」に掲載されていた2話を少し書き直しての出版。
同じ本を読む事が増えて、それを防ぐためにこのレビューを書いてるというのに、タイトルを変えられるとお手上げ。
はっきり分かるようにタイトルにデカデカと改題と書いて欲しい。
まあ、肝心の内容は読んでいて、うっすら読んだような気がする・・・位ですっかり忘れていたのでいいっちゃいいけど・・・。
「鏡の国の殺人」
美術館で館長が殺される事件が起きる。
榎本は館長に頼まれて、美術館に侵入していたがその際に死体を見つけて自分が罠にはめられたと気づく。
榎本の身の潔白を証明するには、他に誰かが美術館に侵入した事を証明しないといけないが、その時、美術館には美術品としての迷路が施されており、侵入不可能だった。
個性的な人物・・・人の顔を見分ける事ができない不思議の国のアリスの研究家らしき男性の存在が面白い。
ダイバーの男性が変死する事件が起きる。
彼が死んだ時、近くにいたのは300m深海にいたダイバーたちと200m離れた所にいた船の男性。
深海から急に上がる事は不可能で、物理的に犯行は不可能だがー。
2話とも、トリックがどうこうという話になると面倒くさくなって考えが停止した。
分かりやすく最初の話では図なんかも載ってたけど、それを見てもピンとこない。
それよりも犯人の犯行動機や人間の心の動きを描いてるパートの方が面白かった。
実際、潜水をした事がある人、密室トリックを解くのが好きな人には面白い話なんだろうと思う。
ドラマにもなった、防犯コンサルタントの榎本と弁護士の青砥シリーズ。新作かと思いき...
図書
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(1人)
49. 毎日世界が生きづらい
宮西 真冬‖著
講談社 2021.10
あめんぼう さんの評価:
結婚したばかりの30代の夫婦の心境を描いた物語。
妻の方は子供の頃から感情的な母親にキツい言葉を言われて育ってきた。
彼女の夢は小説家になること。
結婚を機に書店のパートをやめて別の仕事を探し始める。
夫の仕事はゲームのプログラマー。
妻とは学生時代からのつきあいで、遠距離恋愛の末に結婚した。
結婚式の時はおどけて明るい雰囲気だった夫が結婚後、何故か不機嫌で妻の些細な行動に腹を立てるようになった。
仕事の人間関係で悩み精神的に限界にきた彼は三か月仕事を休む事となった。
そんな二人のまだ始まったばかりの結婚後の物語。
最初、妻の心境から話が始まりずっとそうだと思っていたら夫の側のパートが始まり、おや?となった。
だからと言って、妻側、夫側から見たお互いの印象が大きく変わる訳じゃない。
私が読んでいてずっと思ったのは、最近の夫婦はこんな感じなのか・・・という事。
お互いを「あなた」と呼んで敬語を使って大人な感じのくせに何故か子供っぽく感じられる言動。
私とは二人と世代がかけ離れていて、感覚が違うからしょうがないのかと思いつつ、ちょくちょく違和感があった。
妻がADHDと突然診断されるくだり。
私がこの小説で読んだ限りの彼女は普通だと思う。
ゴミ箱に袋がちゃんとかかってない、ヘアピンがそこらに転がってる、ひとつの事に集中したら他がおろそかになる。
私だってそんな事あるし、それをいちいち気にする夫が神経質という見方をして読んでただけに、そこも感覚の違いがあると思った。
客観的に見ると、このご時世にこの夫婦は結構恵まれてると思う。
夫は大きな会社に勤めていて、妻は夢である小説家の一歩を踏み出し、マイホームも手に入れた。
だから、そんな恵まれている人が悩むのはおかしいとは思わない。
彼らが生きづらさを抱えて生きているというのはちゃんと伝わった。
伝わりつつもちょっと贅沢かな・・・と思ってしまった。
結婚したばかりの30代の夫婦の心境を描いた物語。妻の方は子供の頃から感情的な母親...
図書
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(4人)
50. 邯鄲の島遙かなり 下
貫井 徳郎‖著
新潮社 2021.10
あめんぼう さんの評価:
上巻、中巻に引き続き、一ノ屋の子孫の物語。
今回は昭和初めから令和までの話となっている。
「明日への航路」
戦争孤児となった少年と、戦争で顔を大怪我した帰還兵。
両親が亡くなり途方に暮れていた少年を帰還兵の青年が引き取り一緒に暮らすようになる。
青年には幼馴染の女性がいて、少年から見ても二人は相思相愛なのに、お互い初心で恋愛は進展しない。
やがて、女性は他の男性とつき合うようになり結婚してしまう。
青年の方は島の復興に尽力し、島と都会を行き来する中で出会った女性とつき合うようになる。
それを近くで見てやきもきする少年の様子が描かれている。
「野球小僧の詩」
野球が好きな5人の少年。
彼らは中学に進学し野球部に入るが、先輩たちはあまりにも野球が下手くそで、入ったばかりの5人より劣っている事からくさって全員退部してしまう。
5人では野球は出来ない。
何としても部員を9人にしなくては・・・と5人は部員を集める。
集めた中には、野球経験の無い者を初め女性もいた。
やがて、何とか人数が揃った野球部は都会へ試合に行く事になる。
割と野球パートが丁寧に描かれた作品。最初、何とか部員を集めようとしている様子など、水島新司のマンガを思わせた。部員集めから試合の遠征費など全部自分たちで賄っているというのにたくましいな・・・と思った。
今なら部活の世話もお金も親が出すのが当たり前だけど、そうでない所に熱意を感じた。
「一ノ屋の終わり」
一ノ屋の次の跡取りとして生まれた男性。
時代は跡取りがどうの、一ノ屋がどうのという考えは古いという所まできていたが、彼の父親は一ノ屋として血筋を残さなければ・・・と思っており、主人公もその圧を感じている。
所が、彼は成長途中で自分は女性に興味がなく、男性が好きだという事に気づく。
彼には幼馴染の女性がいて彼女には心情を話しているが、彼女は美人で歌手になるため都会へ行ってしまう。
「邯鄲の島遥かなり」
島の火山が噴火し、島民は皆島を離れて東京に避難する。
一ノ屋の子孫である女性は最初、家族たちと東京で暮らしていたが、やがて島に帰れるようになっても一人で都会に残る。
そんな折、東北で震災があり彼女はそこにボランティアとして赴く。
そこでヒッピーのような青年と知り合いやがてつき合うようになる。
貫井さんの本だから、最後には残酷な話、殺伐とした話になるのかな・・・と思ってたらそんな事はなかった。
この本に出てくる人々は昔から今まで一貫して素朴で親切で生命力にあふれている。
ただ、面白い順に言うと、1巻、2巻、3巻となる。
時代が進む内に平板な印象なのは時代のせいだろうと感じた。
私が読んでいて思ったのは、当たり前の事だけど昔には返れないという事。
いくら昔が良かったと懐かしんでも時は返らない。
進んでいくしかない。
以前読んだ貫井さんの本で、人は進化の途中なんだ、というのがあった。
人の究極は優しい事で、今はまだそこに行き着く途中だと。
それならば、昔よりも今は人はちょっとでも優しくなっているはずだけど、実際はそうではないと思う。
この本では人の本質的なものは変わってないけれど、時代のうつり変わりにより、大きな出来事ー戦争や震災により、人の運命は変わっていく生き様も変わっていくという様を見せてくれている。
進むしかない。生きるしかない。
それを淡々と読ませてくれる本だった。
上巻、中巻に引き続き、一ノ屋の子孫の物語。今回は昭和初めから令和までの話となって...
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