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レビュー一覧 (22件)
ゲンゴロウさんの投稿レビュー/甲斐市立図書館
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11. 苦海浄土
全三部 石牟礼 道子‖著
藤原書店 2016.9
ゲンゴロウ さんの評価:
『苦海浄土』第一部を読んでから、50年近くになる。
厚生大臣が水俣病患者を見舞うため病室に入ると、ベットから「て、ん、の、へ、い、か、ば、ん、ざ、い」と声がした。作者石牟礼はこの場面を淡々と記しているが、十代だったゲンゴロウは、ここに釘付けとなった。
チッソ水俣工場からの排液で水俣湾が汚染され、魚も猫も、そして、人間も胎児も、病気となり殺されてしまった。チッソも政府も「工場排水が原因だ」と認めるのに、裁判も含めて随分と時間を要した。それなのに「て、ん、の、へ、い、か、ば、ん、ざ、い」とは、なにがこの方をして、この言葉を言わしめたのか。
1970年代、映画「水俣」上映運動が全国各地でとりくまれ、山梨県内でも上映がおこなわれた。上映運動に十代だったゲンゴロウも関わった。だから『苦海浄土』は忘れられない作品だ。
2016年秋、本冊を新着コーナーで見つけ手に取った瞬間、「493」の登録番号に「『苦海浄土』は文学作品だろう。」と反応し、登録の訂正修正を竜王図書館に申し入れた。「登録は図書館流通センターの指示に従うこととなっている」ので、図書館からセンターに問い合わせた。「センターとしては水俣病についての医学分野の著作とした」との答えに「センターの職員は石牟礼道子を識らないのか」と訝しく思いつつ、出版元の藤原書店宛書面を送った。数か月後「493」の登録番号を取り消すとの連絡が、センターから竜王図書館に送られてきた。なお、国立国会図書館では当初から「ルポルタージュ」として登録されていた。
2018年二冊の石牟礼道子論を手に取った。
渡辺京二がいつのまにか石牟礼宅に朝から晩まで居座って家事雑用をこなしていることを、書いた新聞記者米本浩二の作品と、渡辺京二自身の作品。
「石牟礼さんは、自分の全集を開いては赤エンピツで赤、入れているんだよ。印刷製本されて販売されてるのにね」
「俺の書いたものなんか読んでくれているのかな。読んだとは言ってはいるけど、なんの感想も言ってくれなかった。」
2018年2月10日、石牟礼道子は逝ってしまった。
『苦海浄土』第一部を読んでから、50年近くになる。 厚生大臣が水俣病患者を見舞う...
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12. 太宰治全集 9
小説 8 決定版 太宰 治‖著
筑摩書房 1998.12
ゲンゴロウ さんの評価:
井伏鱒二『黒い雨』の冒頭に、広島路面電車内での「甲府もやられたようだ」との男性二人の会話が登場する。ずいぶん遠いところの空襲が話題になっていることに、少々違和感があった。井伏は甲運村(甲府市東部空襲エリア外)に疎開し山梨には親しかったから、「甲府空襲」はふれておきたかったのだろうと受けとめた。井伏と太宰は酒を酌み交わす仲だったから、空襲で太宰がどうなったか、心配しただろう。
太宰の「甲府空襲体験記」が『薄明』だ。
美咲神社から甲府中学校をまわりこんで相川を渡り、湯村山に至る。避難の筆さばきはさすが太宰だ。湯村山の南には、常盤ホテルがある。四月から陸軍大学に接収されていた。(常盤ホテルは朝鮮王皇族のレビユーでふれた) なお湯村は。NHK朝ドラマ『あぐり』で、吉行あぐり、その子淳之介・和子らが飯野(白根町)へ疎開する途上で立ち寄る場面で登場した。
甲府への空襲を、盆地の南方から眺めていた甲府中学校一年生がいた。のちヨーロッパ近代史研究者となる喜安朗だ。翌朝国鉄身延線で甲府駅を目指すも、国母駅まで。空襲された南端の情景が、喜安の回想記で浮かび上がる。喜安は前年に上野村(三珠町)に疎開してきて中学校へ進学していた。この村には、アナキスト石川三四郎も疎開していたが、甲府空襲への言及はない。石川は望月優子を弟子として育た関係からか県立文学館では、「望月・石川の葉書・書簡」として保管し現物閲覧も可能だ。
甲府空襲の写真には驚くべきことが写っている。
甲府駅は焼けずに残り、その東にあったガス会社は消失している。米軍は占領後の交通網の確保を前提に、空爆をおこなったことが見えてくる。その米軍が甲府駅で列車一台を、「地方病研究」に充てることとなる。
太宰は空襲後すぐに、津軽へ向かう。
井伏鱒二『黒い雨』の冒頭に、広島路面電車内での「甲府もやられたようだ」との男性...
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13. シリーズ日蓮 4
近現代の法華運動と在家教団
春秋社 2014.7
ゲンゴロウ さんの評価:
本冊は論集で、妹尾義郎論について取り上げたい。
妹尾は日蓮宗本多日生の門下で、山梨県内への布教活動のため派遣された。鏡中條・寺部等での小作争議に遭遇し、地主側から調整役を依頼された。小作人たちとを話し合い深めるに従い、妹尾は小作人側に立って活動するようになっていた。この争議へは、賀川豊彦や若き石橋湛山も駆けつけるほど、注目された。
妹尾は釜無川東部方面へ活動をひろげ、玉幡や鎌田等の小作人宅へも泊まりこみ布教と支援活動を継続する。開国橋右岸でのバス事故でその日の盆踊りが中止になったり、八ヶ岳おろしが吹きつける信玄橋を自転車を抱えながらやっとの思いで、御影の会場に着いたら誰もいなかったり、1920年代から1930年代にかけての「身近な歴史」が見えてくる。これらは『妹尾義郎日記』(全7巻)で確認できる(県立図書館・身延山大学図書館)
妹尾は、葬式仏教の廃止を訴えて新興仏教者同盟を結成し、無産者運動との連携を図る。毎週来県していた妹尾は同盟の活動で、だんだん足が遠くなる。
その後の妹尾については、後日を期したい。
妹尾論を担当された大谷氏は、しまね・きよしの妹尾論を、「嚆矢の文献」として紹介しているが、『妹尾は二流だ』と記すしまねの立て方に大いなる疑問が沸き上がる。鶴見俊輔主宰の思想の科学研究会による「共同研究転向」が、一流、二流、三流、等々と人を見るのかと啞然とした。少なくとも「嚆矢の文献」として定評のある、狩野享吉「安藤昌益論」、幼方直吉「柳宗悦論」そして、市井三郎「山縣大弐論」等にしまねに感じた違和感・嫌悪感はない。妹尾の日記に、甲府盆地の小作人たちに真正面から向き合い、仏教そのもを変えなければならないと活動した1920年代から1940年代の妹尾の姿が、八ヶ岳から南アルプス山系にかけて浮かび上がってくる。
本冊は論集で、妹尾義郎論について取り上げたい。 妹尾は日蓮宗本多日生の門下で、...
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14. 保守と大東亜戦争
集英社新書 0941 中島 岳志‖著
集英社 2018.7
ゲンゴロウ さんの評価:
鶴見俊輔の保守の空洞化が戦争へのみちを阻止できなかった、との発言を著者はひているが果たして、戦争志向勢力に対抗する保守潮流が明治大正に形成されていたのだろうか。仮に形成されていたとして、昭和初期にその潮流が空洞化したことで満州事変に始まる15年戦争を阻止できなかったということらしい。その保守潮流を検証しょうとすることを本書は課題としているものと思いきや、残念ながらそうではなかった。
双葉図書館所蔵『久野収集Ⅰ』の「日本の保守主義」で久野収は、「昭和19年心グループは天皇の詔勅を下してもらって停戦・終戦にもっていこうと相談したが、その前にいろいろ行動・活動していれば、どうなったか。開戦阻止に向けて行動しなかったことへの彼らの自己反省がない。」とのべている。この点を著者には究明していただきたかった。
竹山道雄の天皇を軍部に奪われたとの文書が紹介されたが、では天皇を軍部からだれがどこへ奪い返したのかを、保守潮流がどのように論じてきたかを、著者は問うていない。
この問に答えたのは、集英社新書の白井総国体論だ。
昭和天皇は軍部から米軍・米国に奪われたことを、白井は明らかとしている。
本書を読む前に、白井を読まれることをおすすめする。
鶴見俊輔の保守の空洞化が戦争へのみちを阻止できなかった、との発言を著者はひてい...
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15. 証言集関東大震災の直後 朝鮮人と日本人
ちくま文庫 に19-1 西崎 雅夫‖編
筑摩書房 2018.8
ゲンゴロウ さんの評価:
『そんなはずはない、信じられない』
浅川巧は日記にこう記した。関東大地震に乗じた朝鮮人騒擾を報じた新聞を、浅川は握りしめていた。
息子宗理の手をひいて「焼けどまり」まで来た柳宗悦は、数人の日本人が一人の朝鮮人を叩きのめす様に『ひでえことしやがる』と憤った(柳宗理の回想)。そして二か月後、柳夫妻は「被災朝鮮人救援チャリティーコンサート」のため朝鮮に向かう。
ここで挫折中断していた「朝鮮民族美術館」開設のための活動も、再開された。11月に朝鮮総督府を訪れ、翌年春の開設が決まった。場所は、朝鮮総督府庁舎の裏、李氏朝鮮王宮の一角「京福宮」だ。
つまり、朝鮮民族美術は、過去と現在の統治空間に閉じ込められてしまった。果たして何人の市井の朝鮮人が「朝鮮民族美術館」を訪れることができただろうか。「地震と六百回を超えた余震と虐殺」に恐怖し帰国した数万の朝鮮人に、朝鮮総督府は緘口令を発令した。そして、従前以上に意識的に日鮮融和に取り組む。「朝鮮民族美術館」は日鮮融和の具体化の一つだといえるだろう。
なお、本書に収録された吉野作造については、後世に伝えるべきことが書かれていない。吉野たちがおこなった「朝鮮人被殺被傷状況調査」は、大日本帝国時代は公開不可とされた。日本国となり日本人による調査がはじめて公となった。p.112から113にかけて吉野のおこなった調査を記載するスペースはあり、編者はあえて載せないと判断されたのだろうか。
『そんなはずはない、信じられない』浅川巧は日記にこう記した。関東大地震に乗じた朝...
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16. 飯田龍太全句集
季題別 新装版 飯田 龍太‖著
KADOKAWA 2015.2
ゲンゴロウ さんの評価:
龍太が、境川小学校の校庭を吹き抜ける風が子どもたちを包み込む情景を、とらえた。
大阪の小学校を狂刀が襲ったとういう報道を耳にした時、この句が思い浮かんだ。
この子らにすずしき風が吹くことは、これからはない。
なんてことしやがる。
あの日から、全国の学校が閉ざされた。教室を襲う狂刀を防ごうとする策・柵だ。これに加えて、じじばばが子どもたちと登校、下校時に一緒に歩いている。
見守りだ。
見守り隊に参加できるじじばばは増えているが、小学生はあきらかに減っている。
すずしき風に包まれる子どもたちが、少なくなっている。
龍太が、境川小学校の校庭を吹き抜ける風が子どもたちを包み込む情景を、とらえた。...
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17. 朝鮮王公族
帝国日本の準皇族 中公新書 2309 新城 道彦‖著
中央公論新社 2015.3
ゲンゴロウ さんの評価:
李氏朝鮮最後の皇太子李垠と梨本宮方子女王との結婚は、岡田准一vs菅野美穂が演じたドラマをはじめ、ある程度の認知はあろうかと想います。
ここでは敷島村との関係を紹介します。
1945年3月東京への大空襲で陸軍大学が使えなくなり、甲府常盤ホテルを陸軍は徴収しました。陸軍大学を甲府へ移したのです。李垠は陸軍大学教官でしたから移住します。家族に従者で十数名の移住です。住まいとして提供されたのが、敷島村・村長宅でした。準皇族への扱いとしての村長宅の提供です。4月から8月までの5か月間、李垠は敷島村から湯村常盤ホテルへ通いました。妻方子も敷島村で5か月間暮らします。
当時の村人たちは、李垠・方子一家をどんな思いで眺めていたのか。村行政はどんな気使いをおこなったのか。当時の資料等をお持ちの方にはご教示いただきたい。
なお、方子への婦人雑誌インタビューのコピーは、市立図書館へ提供しています。
方子は鍋島家の出で、ご先祖は秀吉朝鮮侵攻軍の一画を担いました。経緯は『葉隠』で確認できます。2018夏新着コーナーにあった『葉隠』を開き、鍋島家と朝鮮、そして、方子と朝鮮とのえにしに感心した次第です。
李氏朝鮮最後の皇太子李垠と梨本宮方子女王との結婚は、岡田准一vs菅野美穂が演じ...
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18. ほろびた国の旅
三木 卓‖著
講談社 2009.7
ゲンゴロウ さんの評価:
満洲国哈爾濱、子供たちがドッチボールに興じている。
満洲人チーム 対 朝鮮人・日本人合同チーム。さて、先ほどから満洲人は朝鮮人ばかりを狙ってボールを投げつけている。結果、朝鮮人が日本人の盾になってしまう格好だ。満州人は遠慮があるのだろう。満洲国一等国民日本人を怒らせたらまずい、子供世界にも浸透している「五族協和の噓っぱち」だ。
中野重治の詩『雨の降る品川駅』が思い浮かんだと、感想を送った。
中野はこの詩で、日本人プロレタリアートの前盾、後ろ盾になることを、朝鮮人にもとめた。あれと同じ構図だ、だが朝鮮人たちからは『なぜ俺たちが盾にならなければならないのか』と問い返された。
三木さんからは、自身の体験から日本、中国(国民党・共産党)、ソ連、アメリカ、それぞれの軍隊のひどさを記したご返事をいただいた。戦争のことたくさん勉強してください、と添え書きされていた。
満洲国哈爾濱、子供たちがドッチボールに興じている。満洲人チーム 対 朝鮮人・日...
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19. 大岡昇平全集 9
大岡 昇平‖著
筑摩書房 1995.6
ゲンゴロウ さんの評価:
中国大陸から朝鮮半島に一端集合した甲府連隊は、『遁走』に描かれているとおりレイテへと向かう。甲府連隊に与えられた使命は、リモン峠を死守し米兵を一名たりとも通すな、だ。
『野火』をはじめとする自身の戦争体験に基づいた作品のある大岡は、甲府連隊の生き残りに、県内をくまなく歩き聞き取りを1970年代におこなっている。この聞き取りのさなか甲府市内の大学が文学講演会を主催し、高校生だったゲンゴロウは講演会で大岡の声を聴いた。後年、大岡が来県していた目的を『レイテ戦記』を手にして、はじめて識ることとなる。
リモン峠の死闘に、龍王村出身の伍長が登場する。
伍長は毎夜数名を引き連れ、米兵を襲う。ことばどおりのゲリラ戦だ。
この記述に出会うまで、ジャングルでの日本軍の戦い方は、万歳突撃という集団自殺しかないと思っていた。ヴェトナム戦争でのゲリラ戦と同じような戦いはなかったと思っていた。
『レイテ戦記』はジャングルでの日本軍の戦い方のイメージを、一新してくれた。
しかも、おらが村の先輩、先行世代による戦いに因ったことに、思わず行間に「ご苦労さまです。」と頭を下げ、手を合わせた。
伍長の墓は竜王北中学校南、国鉄線路の南傍らで、龍王村を見守っている。
全集第10巻も含めたレビューです。
中国大陸から朝鮮半島に一端集合した甲府連隊は、『遁走』に描かれているとおりレイ...
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20. 安岡章太郎戦争小説集成
中公文庫 や1-2 安岡 章太郎‖著
中央公論新社 2018.6
ゲンゴロウ さんの評価:
1944年10月レイテにおいて、対米決戦に陸海軍は臨んだ。
中国大陸で作戦展開中の甲府連隊へもレイテ決戦への参画が指示された。朝鮮半島某所を集合地として東京第一師団の部隊も、ここに集合した。『遁走』の主人公は東京からの部隊にいた。
主人公が下痢で便所に駆け込んだまま数時間、なんと部隊は主人公を残したままレイテへ出発してしまう。所在不明で脱走兵は見つけしだい銃殺刑、とはならないところがこの作品の妙技だ。帝国陸軍を相対化している。
「望月軍曹」が登場するが、甲府連隊の所属と想像できる。たぶん峡南方面から招集された方だろう。レイテでの甲府連隊の奮闘ぶりは、大岡昇平『レイテ戦記』で確認できる。『遁走』から『レイテ戦記』で甲府連隊の足どりを辿ることができる。
おらが村の先輩、先行世代の生きざま死にざまを、確認いただきたい。
1944年10月レイテにおいて、対米決戦に陸海軍は臨んだ。 中国大陸で作戦展開...
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