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レビュー一覧 (48件)
子門さんの投稿レビュー/筑前町図書館
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(4人)
31. カラマーゾフの妹
高野 史緒‖著
講談社 2012.8
子門 さんの評価:
かの文豪、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の続編というか、後
日談というか(元々、執筆する予定はあったらしいけど)ソレが、時空をへだ
てた日本の作家によって実現した。
「第58回江戸川乱歩賞」の受賞作、高野史緒「カラマーゾフの妹」がその本
書となる。今から10年前の刊行。
「二次小説」はウェブ上でごく普通に見られる形式であるが、実績のある作家
のチャレンジというのはあまり例がないとおもう。それも「江戸川乱歩賞」の
ごとく伝統ある場では・・・巻末に収録された「選考経過」にもそのあたりの
戸惑いというか驚きが反映されているようだ。
でもって、なぜに今、本書を再読しているかというと。
高野史緒さんのブログでもって、このほど、「カラマーゾフの妹オリジナル
・バージョン」出版がアナウンスされたことによる。
本書の目次をざっと見ただけでも判るけども、「多重人格」「バベッジの計
算機械」「サイコパス」「宇宙船」とか、そうとうにぶっとんだ内容となって
いるのだけど、先のブログによると、アレでもそうとう抑えたシロモノだった
ようなのだ。著者の本来の原稿は、出版サイドからすると「あまりにもSFす
ぎるので、これはちょっと・・・」と言われたとのこと。
出版社からすると売り上げを第一に考えるのは当然だろうけど、だからといっ
て作品自体の内容にまでクチを出されるのは、著者として納得のいくものでは
なかろうとは思う。
世知辛い世の中、と一言で片付けられないモノを含んでいるとは思うけどもそ
れは一応脇においておく。
ファンとしては、かって出版された「カラマーゾフの妹」のオリジナル・バ
ージョンが今回刊行されること、このこと以上に重大な話はない。
今回の「カラマーゾフの妹」が旧作と比べ、どれほどグレード・アップしたの
か確かめるため、およそ十年ぶりの再読だった。
高野史緒さんは自らのブログでもって下記のように書いている。
正直に言おう。『カラマーゾフの兄妹』はそもそも、『カラマーゾフの兄
弟』×『Xファイル』という企画だったのだ。当然、私としては、そんな
改稿は認めたくなかった。が、あんまり粘ると出版してくれなさそうな雰
囲気になってきたので、仕方なく改稿したのである(中略)
『Xファイル』……そう、私は『Xファイル』が好きなのだ。『カラ兄』
とどっちが好きかと言われると困るくらい好きだ。当然、『兄妹』オリジ
ナル・ヴァージョンでは、「あんなもの」や「こんなもの」が出て来る。
もうすでにお分かりの方もいらっしゃるかと思うが、イワン・カラマーゾ
フ=フォックス・モルダーだ。半地下のオフィスも妹の存在も、当然と言
えば当然なのだ。
どうだろう?盛林堂から刊行される「カラマーゾフの妹オリジナル・バージ
ョン」、期待度MAX!!ではないだろうか?
ただし、一般書店での販売はなく、かの書店への注文販売のみらしい。
でもって、「オリジナル・バージョン」読了!
たしかにSFしてるというか、よくぞここまで!そんな内容になっている。
このバージョンに比較すると、商業出版された方はいわば毒をうすめたという
か、そんな感じなのだ。なんでこのまま刊行されなかったのか、ぼくなどは理
解に苦しむ。作中のとある人物のコトバを借りて言うなら「おそらくは出版社
がそうしないと出版しないとでも言ったのでしょうね。出版社なんて、いつの
時代にもそんなものですから」ということになろうか。
あの世とやらで、原作者のドストエフスキーが本書を読んでどんなカオをして
いるのか、想像してみると面白い。
かの文豪、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の続編というか、後日談という...
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図書
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(20人)
32. 本を守ろうとする猫の話
夏川 草介‖著
小学館 2017.2
子門 さんの評価:
ウィリアム・ブレイズの「書物の敵」を読んだ後、本書を手に取った。
できすぎのようだけど、本当の話(本だけに!)
むろん著者の夏川草介氏も「書物の敵」はお読みであったろうとおもう。
案外、そのあたりが本書をかくキッカケになったのかもしれない。
ヒトの歴史と共に本もまた存続してきたとするウィリアム・ブレイズは、その
著書のなかで、「書物の敵」のひとつに「二本足の略奪者」たる人間の所業を
「火」「水」らと同列のモノとしてあげている。
蒐書家、コレクターともいうが、中にはぼくたちの想像を絶する類いの方々も
いらっしゃるようで(詳しくは「書物の敵」を参照のこと)本作品にもそんな
キャラたちがデフォルメされた形で描写されているようだ。
それと、この作品はクリスマスのお話としても読めるとおもう。チャールズ・
ディケンズ「クリスマス・キャロル」は三人の精霊との出逢いにより偏屈男が
生来の人間性を取り戻していくお話だったが、本作品もそれと相似形な印象を
うけるのだ。
だとするなら、主人公の少年の相棒たる「猫」も何かしらの精霊だったかもし
れず、彼の叔母さん(可哀想に、名前をつけてもらえなかった!)も何かの化
身だったかも・・・?
追記
ウィリアム・ブレイズが「書物の敵」を上梓したのは1880年であり、死去
はその十年後である。よってそれ以降の本の受難に関しては他者が責任をもっ
て記録する必要がある。また欧米以外の地域、中国をふくむユーラシア地域、
わが日本、インド、東南アジア、オーストラリア等、編纂すべき歴史はほぼ無
限にあるといっていいと思う。
著述家であり、書誌学者である庄司浅水氏「著作集書誌篇 第三巻」(出版ニ
ュース社)もそうした仕事のひとつ。この本のなかで、庄司浅水氏は、ウィリ
アム・ブレイズの「書物の敵」を紹介しながら、加えてブレイズ以降の事象、
日本のエピソードを加味した新たな「書物の敵」を執筆している。
「書物の敵」はこれ以降も無限に増殖していくハズだ。
ウィリアム・ブレイズの「書物の敵」を読んだ後、本書を手に取った。できすぎのようだ...
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(6人)
33. サマーゴースト
loundraw‖原案 乙一‖小説
集英社 2021.10
子門 さんの評価:
同時発売の「一ノ瀬ユウナが浮いている」とはベツのお話。
夏の日、幽霊、花火(それも線香花火)といったキー・ワードは共通したものはあ
るけど。それと「ユウナ」の場合の、幽霊出現のためのファクターとしての特殊な
線香花火といった縛りもなく、本作はそこまで拘っていないらしい。
本作は、三人の高校生男女と、廃棄された空港跡に出現する女性幽霊との物語。
ある事情でネットで知り合った三人。やはりネットで噂をきいた幽霊にコンタクト
すべく空港跡へとでかけていく高校生男女。幽霊に関心をもつだけに、マトモな事
情があるはずもなく、三人共に自殺志願者であった。そして女性幽霊もまたとある
理由から地上を彷徨っていた・・・。
幽霊とコンタクトできるのが死にたがりの人間というのは理解できる。結果として
三人それぞれが生きる意思を取り戻すストーリーとなるのだが。
そうなるのに力となったのが、幽霊との交流とはどういう理屈であるのか?
周囲の生者たちはなんら寄与してはいない!
むしろ死へと追いやっている観すらある。
とくに主人公格の少年の母親。彼女はけっしてわるい人間ではないのだろう。け
ども我が子を理解することなく、自分の型にはめようとする一点で暴君なのだと
指弾せざるを得ない。
生者たちが三人の生きる意欲を奪っている、というのはそういう意味でだ。
この物語、一見、ラブストーリーにみえるかもしれない。
だがその根底には深刻なテーマが隠されているのではないだろうか?
読者諸賢の感想を待ちたい。
付記
53ページ 8行目
「すでに閉館時間を過ぎており・・・」とある。
コレ、例えば、開館時間を過ぎており、が正しいとおもうぞ?
同時発売の「一ノ瀬ユウナが浮いている」とはベツのお話。夏の日、幽霊、花火(それも...
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(13人)
34. たかが殺人じゃないか
昭和24年の推理小説 辻 真先‖著
東京創元社 2020.5
子門 さんの評価:
このタイトルがすごいとおもう。
でもって、本書を最後まで読み通すと、なんというか、やりきれないというか、
腹立たしくも哀しい気持ちになってしまった。
戦後の混乱期、旧制中学を卒業した主人公たちは、たった一年だけの高校生活
をおくることになる。部活の一泊旅行にのぞんだ彼らが体験した二つの殺人事
件の真相は・・・?
故・小松左京と辻真先さんはほぼ同世代。でもって、小松左京「やぶれかぶれ
青春期」と内容がかぶった部分がある。
ていうか、小松左京「やぶれかぶれ」に込められた「恨みつらみ」をあえてセ
ーブして代わりに青春推理劇風に物語を構成した。
そんな気もしている。
だからといって、自分たちの都合で戦争をひきおこし、なんら責任をとること
なく、弱者へと転嫁した「大人たち」への怒りが内在するストーリーとなって
いることは間違いはない。
作者の規範となっているのだろう。そうおもう。
このタイトルがすごいとおもう。でもって、本書を最後まで読み通すと、なんというか、...
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(4人)
35. 凛として弓を引く [1]
講談社文庫 あ149-1 碧野 圭‖著
講談社 2021.10
子門 さんの評価:
この物語のヒロインもそうだし、その相方となる少年も、名は体を表すというか
まさに弓道をやるために存在しているようなキャラ。
ただし、そのあり方はずいぶんと違っている。
ある意味、異質といってもいいかもしれないです。
だからこそ、たがいに惹かれたのだろうけども。
ヒロインの周囲の大人たち、家族もそうだし、弓道の先輩たちも彼女をバックア
ップしていて、楽しいストーリー展開。
本書でもって弓道の奥深さを実感できるのもポイントが高い!
映画化の話がでてきても、おかしくはないと思うのでけどもネ。
この物語のヒロインもそうだし、その相方となる少年も、名は体を表すというかまさに弓...
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(7人)
36. 遠慮深いうたた寝
小川 洋子‖著
河出書房新社 2021.11
子門 さんの評価:
芥川賞作家さんということで、名前のみ存じ上げていた。
読むのは、本書で二冊目。
日常の出来事についての所感、本の感想、思い出話等々、肩ひじはることなく
読めるエッセイ集。
冒頭、「集会、胆石、告白」と題した一文。
偶然すれ違った女性から漏れ聞いたコトバから、じつにいろんな空想をふくらませ
る作者。作家の業として感心するか、呆れるのか、反応は個人によるだろうけども
なんらストレスを感じることなく読んでいける。
師事したという内田百閒の影響だろうか?
また本書のなかに、作者の作品のいわば「誕生由来」とでもいうエッセイもあり、なかなか興味深い。
「図鑑と空想」・・・「ブラフマンの埋葬」
「最果てはどこにある」・・・「最果てアーケード」
「言葉と小鳥」・・・「ことり」
けれども、ほぼ巻末においてある「答えのない問い」は姿勢を正して読むこと
となった。ナチスドイツの強制収容所から生還した二人の学者のレポートに関
してのエッセイ。あの極限状況のなかで、どうすれば人が人として存在しうる
のか。人にとって、なにが「救い」となりうるのか。
自らが選んだ文学が、はたしてその力となるのか?
なんとも重い問いをもって、作者は本書を結んでいる。
が、ぼくはソレとまったくベツに、この本の装丁に注目してほしいと思う。
外見が、まるで白磁の置物、なのだ。
のどかな昼下がり、つらつら鑑賞してみてもワルくない。
ただし、ウラに貼ってある「めくばーる図書館」のシールは、興醒めではある
のだけども(笑)
芥川賞作家さんということで、名前のみ存じ上げていた。読むのは、本書で二冊目。日常...
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(2人)
37. 黄金蝶ひとり
Mystery land 太田 忠司‖著
講談社 2004.1
子門 さんの評価:
主人公の少年の一夏の冒険談・・・といってしまったらソウなのかもしれないけど
ラスト近くでコレが一気にサイエンス・フィクションになってしまう!たとえるな
らば、ピラミッドの玄室で自動車の模型をみつけてしまった!みたいな・・・。
今ひとつは、主人公の相棒がじつは・・・!
まぁ、後者は、田中芳樹さん「銀環計画」なんてのもあるのでそれほどのショック
はなかったにせよ、作者さんときたら、あの手この手で隠蔽につとめてくれたもの
で、真実が暴露されたときは、おもわず笑ってしまった!
何はともあれ、良質のエンタテインメント作品として推薦したい。
主人公の少年の一夏の冒険談・・・といってしまったらソウなのかもしれないけどラスト...
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(2人)
38. いつだって読むのは目の前の一冊なのだ
池澤 夏樹‖著
作品社 2019.12
子門 さんの評価:
週刊文春に掲載された書評の中から、じつに16年分をまとめた一冊。
ページ数にして700ページにもなる、枕本(一部では弁当箱とも称する)と
なった。コレに匹敵するシロモノとしては、「茅田砂胡全仕事 1993-2
013」以外にその存在をぼくはしらない。
とりあげた冊数、じつに444冊。
どれもこれも面白そうな本ばかり・・・ていうか、本を紹介する語り口が的確
かつ軽妙なあまり、おもわず手を伸ばしたくなったぼくである。
「サピエンス全史」「宇宙はなぜこんなにうまくできているのか」の二冊はさ
っそく図書館から借りだし、アレン・カーズワイル「驚異の発明家の形見函」
は古書店に注文するハメとなった!
さて、何を読もうか?と迷ったとき、ガイドブックとして手に取る本として推
薦するしだいである
週刊文春に掲載された書評の中から、じつに16年分をまとめた一冊。ページ数にして7...
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(1人)
39. 残酷な童話
論創社 2007.10
チャールズ・ボウモント 著, 仁賀克雄 訳
子門 さんの評価:
才能ある作家さんたちの中で、いくつもの傑作を上梓してのに夭折してしまった
そんなケースがけっこうあったりする。
構想半ばの作品をのこし逝かざるをえない作家本人の無念さはいかばかりか。
そんな作家の愛読者たちも寂寥感を禁じ得ないものがある。
チャールズ・ボウモント。この作家さんもそんな悲しいケース。
かのレイ・ブラッドベリにその才能を認められた逸材。
サイエンス・フィクション、ホラーをはじめとし、多方面の分野の作品、人気ド
ラマの脚本を手がけるなど将来を嘱望されたのであるが、その作家生活もわずか
十二年で終わりを告げる。
アルツハイマー病の発症により、1967年38歳の若さで死去。
本書はそんな作家の1950年代の作品集。
時事問題や当時の風俗に題材をとった作品は、さすがにピンこない箇所もあるの
だけど、人間の根源にねざした恐怖などは、じわりとした感じでもって読者に迫
るものがある。その才能の大きさにくらべ、本人に与えられた寿命の短さを思う
と慚愧に堪えない。
才能ある作家さんたちの中で、いくつもの傑作を上梓してのに夭折してしまったそんなケ...
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図書
(8人)
40. JAGAE
織田信長伝奇行 夢枕 獏‖著
祥伝社 2021.6
子門 さんの評価:
本書のタイトル、なんとも異様な響きをもっている。
通常の国語辞典等には載ってはいない。
本文にもあるごとく、太田牛一「信長公記」中、「蛇がへの事」がその出典。
「爰に希異のことあり。尾州国中、清洲より五十町東、佐々蔵人佐居城、比良の
城の東、北南へ長き大堤これある内、西にあまが池とて、おそろしき蛇池と申し
伝へたるいけあり(後略)」桑田忠親校注 新人物往来社 1997
とにかく件の蛇池の傍で、近在の住人、某又左衛門がひとかかえもありそうな大
蛇を目撃した。それを聞き付けた信長が家来を伴い彼の地に赴き、動員した村人
たちに命じ、池の水を掻き出させ、七分くらいの水量になった時点でもって、自
ら池に潜り大蛇を探したが見つからなかった。次に水練上手な家来にも潜らせた
のだが、結局大蛇は発見できず、信長は清洲へと帰還した・・・。
およそそんな内容の記事なのだけど、その行間からなにか慄然とするモノが感じ
とれはしないだろうか?
当時の人々にしてみれば、ひとかかえもある大蛇なら、畏敬の対象として、山の
神等の扱いで祭り上げる・・・なら理解できもする。
が、信長はその棲むテリトリーと思われる池を浚って、その目でもって存在を確
かめようとしたわけである。
その心性、心のありようときたら、まさに「異質」「異形」というしかない。
信長という人、「尾張のうつけ」として有名だったそうだけど、根拠としてこう
いうところに原因があったのではないか。
この記事に触発され、夢枕獏氏が異形な心の主である信長の物語を書き上げたの
も理解できる気がする。
で、その異形な信長に、これまた戦国の魔人たる飛び加藤が絡んでくる!
たしかにコレで面白くならないハズはない。
コロナ禍の日々に倦んだ僕の心が癒やされた一冊であった。
お薦めする次第である。
追記
「信長公記」の作者、太田牛一は、この記事の冒頭で「希異のこと」と記して
いる。普通、大蛇のことと解するのが自然であろうけど、ひょっとしたら、信
長の心の持ちよう、あり方の異様さを指摘していた、のかも?
そんな風にも考えてしまった。むろん、家来としては主君である信長のことを
いくらなんでも「希異のこと」などと評するワケにはいかないのは当然。
だからココは大蛇になすりつけたのだけど、案外、同時代の知人たちはこの記
事を読んだとき、その真のイミに気がついたのではないか、そんな気もしたの
だけど、どんなものだろうか?
本書のタイトル、なんとも異様な響きをもっている。通常の国語辞典等には載ってはいな...
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チャールズ・ボウモント 著, 仁賀克雄 訳
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