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レビュー一覧 (46件)
しゅうちゃんさんの投稿レビュー/甲斐市立図書館
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(9人)
41. 旅のつばくろ
沢木 耕太郎‖著
新潮社 2020.4
しゅうちゃん さんの評価:
「深夜特急」等、海外の旅の著作もある沢木耕太郎の、国内の旅のエッセイ集。JR東日本の新幹線の座席にも置いてある雑誌「トランヴェール」に連載されていたものの中から41編が選ばれ1冊の本に。6歳のときの東北一周旅行から最近まで、人生の時間を遡る旅の記であるとともに、作家たちを含め様々な人たちとの触れ合いをたどる旅の記でもある。日常から離れる旅のよさを感じさせてくれる、さわやかな掌編。
「深夜特急」等、海外の旅の著作もある沢木耕太郎の、国内の旅のエッセイ集。JR東...
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(1人)
42. 知りたい!ネコごころ
岩波科学ライブラリー 292 高木 佐保‖著
岩波書店 2020.2
しゅうちゃん さんの評価:
ネコは、体験したことを覚えているのか? あることから他を推測することはできるのか? できそうに思えるが、それを証明するとなるとかなり難しそうだ。本書は、「ネコの心理を科学する」本。ネコの心・能力を、実験で検証していく。
ネコは思い出(学問的には「エピソード記憶」というようだ。覚えようとせずに覚えた記憶)をもっているのかを検証。おやつを食べる皿と食べ損ねる皿を用意し体験させる。体験後、もう一度食べた皿と食べ損ねた皿を用意すると、ネコはどういう行動をとるか。その行動でネコに記憶があると立証できるか?
ネコは、音から物体の存在を推理できるかを検証。箱の中に物を入れ、それを振って、その音から、予測と異なったと思われる時(入っているはずなのに音がしない、入っていないはずなのに音がする)にネコが示す対応(学問的には「期待違反法」というようだ)を見る実験。そこに有意なネコの行動が見られるか?
ネコ大好き人間によるネコの解説本も、そこは「岩波科学ライブラリー」、科学するとはどういうことかを教えてくれる本でもある。
著者は、1991年生まれ、京都大学大学院文学研究科博士課程終了。本書に掲載されている研究で京都大学総長賞受賞(2017年)。肩書とは裏腹に、ネコ好きの柔らかなタッチの文章で、本当は結構難しいことを、楽しいエピソードをまじえ、わかりやすく楽しく説明することができる。まだ若く、今後の研究とその成果を引き続き発表してくれることを期待。
ネコ大好き人間とともに、実験大好き人間におすすめ。
ネコは、体験したことを覚えているのか? あることから他を推測することはできるの...
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(4人)
43. <いのち>とがん
患者となって考えたこと 岩波新書 新赤版 1759 坂井 律子‖著
岩波書店 2019.2
しゅうちゃん さんの評価:
「二人に一人が罹患、三人に一人が死亡」、まさに「国民的病」となったがん。医療の進化で、全がんの10年死亡率は58%と、がんは治る病気になりつつあるが、「すい臓がん」は5年生存率9%と最も手ごわいがん。
著者は、東大文学部卒業後NHKに入社、札幌放送局、東京の番組制作局のディレクター・プロデューサーとして、福祉・医療・教育などの番組に携わり、NHK放送文化研究所主任研究員などを経て、教育番組部専任部長、山口放送局長、編成局主幹(総合テレビ編集長)…。女性キャリアの花道を歩んでいた。さらにこれからという56歳で、すい臓がんの宣告を受ける。それもステージⅣ(転移あり)。この「絶対絶命の状況」から二度の手術、二度の再発、術前術後を除く継続した化学療法とその副作用との闘いを継続。生きるための治療の選択、術後の副作用があるなかで何を食べればいいのか、術後の不安の中で届かない患者の声、死の恐怖を、「患者として」言葉を紡ぐ。
「詩人のジェイソン・シンダーは、『がんとは死すべき運命という名のガラスにあなたの顔をおしつけさせる、すさまじい経験である』と書いている。だが、患者がガラス越しに見えるのはがんの外側にある世界ではなく、がんに乗っ取られた世界-がんが無限に映し出される鏡張りのホール」(がん4000年の歴史、シッダルータ・ムカジー)。
著者はシッダルータ・ムカジーの言葉を引用しつつも、「でも私は、たとえ絶体絶命でも『鏡張りのホール』にいるのではないと思ってきた。素っ頓狂なたとえかもしれないが、これは私にとって最後の『異任地異動』」。全国転勤が宿命の放送局、著者も異動を経験。「西の方、陽関を出づれば故人無からん(知人はいないだろう)」(王維)。風景が一変する世界。そこはどうふるまっていいかわからず、孤独も感じる初めての場所。しかし、暮らし始めれば、その土地の歴史に興味がわき、自然に惹かれ、風習の一端に触れる。初めはとりつくしまのなかった人とも言葉を交わし、時には酒を飲み、ともに出かけるようにすらなる。がんの国には希望して来たわけではない。しかし、あらたなことを教えてくれる人、助けてくれる人との出会いがあった。そしてこれまでの友人、知人たちは私の危機に対して、これまで以上に励ましや助力を惜しまないで接してくれた。だからここは「鏡張りのホール」ではなく「陽関の西」。
著者は1960年生まれ。この本は再々発が分かった2018年2月から11月までに書き綴られた。1ケ月後の12月に逝去。癌だと宣告されてから2年7ケ月後の逝去であった。
心に響く豊富な引用、深く重く刺さる安らぎを求めての行動。極めてメッセージ性が強い本。言葉に力がある本。身近にがん患者のいる方に、強くお薦め。
「二人に一人が罹患、三人に一人が死亡」、まさに「国民的病」となったがん。医療の...
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(1人)
44. 火の柱 上
扶桑社ミステリー フ44-1 ケン フォレット‖著 戸田 裕之‖訳
扶桑社 2020.3
しゅうちゃん さんの評価:
16世紀後半、約40年にわたって繰り広げられた、フランスのカトリックとプロテスタントの内戦=ユグノー戦争が小説の舞台。史実をもとに、プロテスタントのイングランド女王エリザベス1世、カトリックのスコットランド女王メアリー、カトリックのスペイン王フェリペ2世等、実在の人物を配置しながら、サン・バルテルミの虐殺、ナントの勅令、スペインの無敵艦隊の敗退等も扱っている。
愛と救いをもたらすべきはずの宗教が、憎悪をかきたて殺戮を生む宗教となる。感情の爆発が、火刑をはじめとした拷問となり、そこに殉教者が生まれる。宗教を背負って実行される殺戮は、無神教の国に生まれ生きてきた人間には、頭で理解できない以上に、実感しにくいが、歴史は宗教戦争の歴史であり、今も世界は宗教を背景にする争いが絶えない。
プロテスタントとカソリックの家の間で仲を引き裂かれる二人、暗躍するスパイ・密告者とそれを阻止しようとする人々の抗争、宗教戦争を背景に命の奪い合いの闘いになる二人の女王異母姉妹、とんでもない悪役も配置され、登場人物を不条理に襲う死も描かれる。上中下1600ページを超える長編も、読み物としての魅力は満載で、長さを感じさせないで、読み切ることができる。世界で2000万部を超えるとされるベストセラーとなった12世紀のイングランド舞台の「大聖堂」「大聖堂-果てしなき世界」より、本書の方がおもしろかった。新型コロナウィルスの行動自粛の中で、お薦めの長編。
16世紀後半、約40年にわたって繰り広げられた、フランスのカトリックとプロテス...
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(3人)
45. 密やかな結晶
小川 洋子‖著
講談社 1994.1
しゅうちゃん さんの評価:
記憶の喪失の物語。リボン、鈴、エメラルド、切手、香水、鳥や花、写真やカレンダーなど、日常あたり前にあった物、大切にしていた物が、それがなんであったかが分からなくなり、やがてそのことに関わる記憶も失われていく世界のお話。そこは、記憶があることが許されない世界でもあり、記憶の消失を免れている人は、秘密警察=The Memory Policeに追われ、捕まり連れ去られてしまう。記憶を豊富にもっていた語り手の母も、秘密警察に連れ去られた。父もその後亡くなり、独りになった語り手の「わたし」(女性)は作家で、フェリーの整備士だったおじいさんの手助けをえて、様々な記憶をもち続けている、自分の担当編集者を地下室にかくまう。語り手が書いている小説は、失語症になって、タイプライターでしかコミュニケーションをとれなくなった主人公が、タイプライターが壊れ、次第に言葉を失っていく物語…。語り手の住む島では、記憶の喪失が続き、ついに左足、右腕の記憶が失われるようになり、そして…。ありそうだけれど、ありえない不思議な島の物語=「ディストピア小説」。
記憶とは、この世界で見・体験したものが、自らの心の中に積み重なっていくということ。記憶は、その人が生きてきたことの証。記憶をなくしていくことは、生きてきた証を失っていくことでもある。逆説的に言うと、書き残すことは、記憶を残すことであり、生きてきた証を残すことであるのかもしれない。新型コロナウィルス蔓延の不条理な世界にいて、いつコロナウィルス警察に連れ去られるかもしれない中で、「記憶」について、改めて考えさせられる。
今から四半世紀前の1994年刊だが、昨年英訳「The Memory Police」がアメリカで刊行され全米図書賞の最終候補となり、英ブッカー賞国際部門にもノミネートされて(例年だと10月受賞作決定)、注目度が格段に上がっている。阪神淡路大震災の前の年の作品も、地震と津波の描写もある。ブッカー賞受賞になると、図書館ではかなりの順番待ちとなり読めなくなるはず。借りるなら今。
記憶の喪失の物語。リボン、鈴、エメラルド、切手、香水、鳥や花、写真やカレンダ...
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(1人)
46. 武田百合子全作品 1
富士日記 上 武田 百合子‖著
中央公論社 1994.10
しゅうちゃん さんの評価:
夫の泰淳にすすめられて始めたという日記。食べ物・買い物を、値段も含めて細かく記録、三食の食事の献立が非凡なレベルで記述されている。献立を読むと、百合子の献身的な料理ぶりとともに、武田夫婦の健啖家ぶりに感心させられる。「朝からこんなもの食べる?」といった食事の記録が随所に見られる。泰淳の執筆・講演・対談・選考会等の対応状況も、雑誌社・新聞社等とのやりとり含め書かれている。今とは違って通信手段が限られていて、電報を打った入り、原稿を電車の便に乗せたりといった秘書的役割を百合子が果たしていたことや、泰淳が病をえて後は、百合子が口述筆記をしていた様子もわかる。運転はもっぱら百合子の役割で、東京・赤坂からの度重なる早朝の移動、富士五湖周辺の散策、雪道での運転等、時代から考えると極めて行動的。山荘の隣人であった大岡昇平夫妻や、土地の人々とのたのしげな交流等も書かれている。
行方不明騒ぎや、愛犬の死、車両事故等のエピソードに、百合子の無垢で自然に生きる姿が、飾らない日記だから、より鮮明に浮かび上がる。泰淳や大岡昇平も、歴史に残る大作家ではなく、ばかなこともする、愛すべき等身大の人間として描かれている。約13年間の日記も、特に心に響いたのは、ともに生きてきた泰淳が病をえて、衰えていく日々の記述。泰淳の死を意識せざるをえない百合子の不安が、読むものにもひしひしと伝わってくる。
日記にも登場する娘の武田花さんは、若干上だがほぼ同世代。私にとっては、泰淳夫妻は父・母の世代となる。泰淳が亡くなったのは64歳、百合子が亡くなったのは67歳。ともに若くして亡くなっている。時がたち、自らがそういう年齢に差し掛かってきた。新型コロナウィルスで高齢者が次々亡くなっていく報を聞きつつ、不安がしのびよる近い未来を見つめる…。
富士が毎日見られる甲斐に住む人々におすすめ。
夫の泰淳にすすめられて始めたという日記。食べ物・買い物を、値段も含めて細かく記録...
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